2004.9.29 更新
日経ビジネス8月30日号にマグナ澤渡社長と囲碁界をリードする大竹英雄名誉碁聖の対談が掲載されました。プライベートにも交友のあるお二人、経営における戦略眼や囲碁における定石の話しなど共通する考え方におおいに盛り上がった対談となりました。

「日経ビジネス」
2004年8月30日号
 

 掲載記事   「日経ビジネス」2004年8月30日号P96-P97から転載


 永久磁石と関連製品の製造・販売で創立20周年を迎えた株式会社マグナの澤渡要社長と、およそ30年余にわたり日本の囲碁界をリードしてきた大竹英雄・名誉碁聖。それぞれに厳しい世界を勝ち抜いてきたおふたりに、経営における戦略眼と囲碁におけるそれについて率直に語ってもらった。
大竹
 澤渡さんと親しくさせていただいて、もう10年以上になる。いつもは気のおけない話ばかりですが、御社は今年で創立20年になるとか。まずはおめでとうを言わせて下さい。
 せっかくの機会ですので改めてお聞きしたい。そもそもマグナという磁石製品の製造会社を興したきっかけは何だったのですか。
澤渡
 ありがとうございます。私は25歳のときに磁石メーカーに入社し、磁石の世界に足を踏み入れました。ちょうど新しいフェライト磁石の出始めの頃で、順調に業績が伸び、私も着実に仕事を覚えていきました。その後、ある名●の和尚さんに「磁石を愛する気持ちを大事にすればきっとうまくいく」と励まされたのを機に49歳の時に株式会社マグナを設立、磁石の製造販売を始めたのです。


◎1週間かかる見積もりを1日で、スピード対応で顧客を掴む

大竹
 独立後は大変だったでしょう。
澤渡
 業界は急成長の最後の時期で、各メーカーはシェアー争いにしのぎをけずっていました。私は小回りを活かし、大手ならば1週間かかる見積もりを1日で出すなどサービス向上に努めました。また当時普及し始めたファクシミリと宅急便を活用できたおかげで、直接客先に脚を運ばずにビジネスができたことも大きかった。おかげで着実にお客様を獲得していきました。それに加えて将来の多品種少量生産を予測し、そこに活路を見い出しました。創業以来現在まで、毎年、在庫を少しずつ増やし続けてきたのです。
大竹
 在庫を増やす?一般的には在庫は少ないほど良いのでは。


◎「標準品」「在庫を増やす」“定石”への挑戦が成長力の源

澤渡
「互いに引き合ったり反発したりする。磁石のそんなところが面白いのですよ」と語る澤渡社長
 生産材としての磁石はほとんどが受注生産で、当時は受注してから仕様に応じて母材から切り出して供給してましたから、納品まで早くて1カ月、通常はおよそ45日かかっていました。それを少しでも短縮できれば顧客のメリットになり、当社の業種も伸びると考えたのです。
 そこでマグナは想定される仕様・用途に応じてあらかじめ様々なサイズの磁石を「標準品」として用意し、そこから適したものを選んでいただけるようにしました。そしてその「標準品」の種類を少しずつ増やし、ご注文に応えられる範囲を広げていきました。それとともに、単に顧客の仕様に応えるだけでなく、「こんなサイズ、形の標準品はいかがですか」という提案に力を入れました。様々な仕様がありますが、特殊なものはごくわずか。時には仕様をほんの1ミリ変えるだけで同等の標準品をすぐに提供できるのです。その方が顧客にも便利ですよね。
 現在、マグナの「標準品」は1500種類に達しており、一般的なご注文のほとんどに対応できます。
 おっしゃるように、一般的に在庫をなるべく減らすことが経営の定石ですが、マグナはそれに反して新しい定席に挑戦してきた、と自負してます。
大竹
 そうですね。碁でも確かに定石は重要ですが、それに囚われると進歩がなくなります。私自身、定石は「知って忘れる」ようにしてきました。定石を通じてその根本にある戦略・戦術を理解できたなら、個々の石の置き方はどうでもいい。形に引きずられて悪手に迷うくらいなら、さっさと忘れてしまった方がいいのです。澤渡社長の場合も、顧客の要望にどのように応えていくか、という戦略・戦術をきちんと押さえられていたからこそ、経営の定石を離れることができたわけですね。
澤渡
 とはいえ最初はやはり心配でしたよ。戦略・戦術に自信はあるが、それが勝負という結果にどのようにはね返ってくるかは、やってみなければわからないところがある。
 数々のタイトル戦を勝ち抜いてこられた大竹先生の勝負度胸を見習わせていただきたいものです。


◎優勢の時は盤面は小さく、劣勢の時は大きく眺めよ

大竹
「いい碁は名画と同じ、見ただけでも美しいものですよ」と語る大竹名誉碁聖
 
われわれ棋士の場合、確かに勝負ごとではありますが、一方では対戦相手と一緒になってひとつの作品を作っているという感覚が強いんですよ。想像力の限りを尽くし、一手一手にエネルギーを込めて打つ。その全部が調和したときに素晴らしい作品になるわけです。そして残った棋譜を何十年後、何百年後の棋士が見ても、感心したり感動したりするような囲碁にしたい。そう考えると、度胸の有無はあまり関係ありませんね。むしろ、今これから自分が打つ手が新しい定石になる、というくらいの信念が大事。澤渡さんにはそれがある。
 しかも全体を見る戦略と、部分を見る戦術の使い分けがきちんとできているようですね。私の場合、自分が優勢の時は盤面を小さくし、自分が劣勢の時は盤面を大きくするようにしてます。
澤渡
 頭の中で盤面をどのように見るか、という意味ですか。
大竹
 そうでうね。全体が優勢ならば、局地戦をひとつずつ取っていくことで優位を固めることができる。劣勢ならば、挽回できるところを速やかに見つけ出さねばなりませんから、部分よりも全体を広く展望してありとあらゆる局面を読みにかからないとならない。
 普通はそれがなかなか難しい。つい今動いている部分にこだわって全体がおろそかになってしまう。よく申し上げるですが、碁は1局のうちに3回くらいは背伸びをしてくださいと。そうやって、全体がどういう状態になっているかを見るわけですね。
 澤渡さんはそれが自然にできている。そういう能力がある人は、碁も強くなりますよ。
澤渡
 大竹先生は楽しく碁を打ちましょうとよく言われる。経営においても、お金が儲かれば楽しいかというとそれだけじゃない。創造している時が楽しい。それは私に言わせれば夢。経営トップは夢づくりが上手でないといけません。夢はいつかは実現するものだと言いますし、それは楽しいことですから。
大竹
 最後に澤渡さんの夢、今後に向けての抱負を聞きたいですね。
澤渡
 新しい市場を開拓したいですね。過去20年間は磁石単体、つまり磁石の特性を提供してきたわけですが、今後は複合化していったら面白いと思います。世に言う電子化というのはモーターが関係しており、モーターは磁石が不可欠です。磁石には無限の用途があります。そしてそれこそが、私が磁石に惚れた理由なのです。


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