キュリー温度とは?ネール温度との違いも解説
2025.08.04

適切な製品設計や素材選定を行うためには、磁力の維持に関わる重要な要素である「キュリー温度」について理解しておくことが不可欠です。
本記事では、キュリー温度の基本的な概要と、混同されやすい「ネール温度」との違いについて詳しく解説します。
キュリー温度とは?
鉄板などにしっかりと貼り付いている磁石も、ある温度を超えると吸着力を失い、外れてしまうことがあります。この温度が「キュリー温度」です。
キュリー温度とは、鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性体が磁石としての性質を失う境界の温度を指します。たとえば、鉄のキュリー温度は約770℃であり、この温度を超えると、どれほど強力な磁石を近づけても反応しなくなります。
これは、磁界を生み出している電子の回転(スピン)が、熱の影響によってランダムな方向に動くようになるためです。低温では整然と揃っていたスピンも、温度の上昇によりその向きが乱れ、磁力を維持できなくなるのです。
キュリー温度の例
主要成分ごとのキュリー温度の一例をご紹介します。
物質名 |
キュリー温度 (℃) |
|
Nd磁石 |
300~330 |
|
主要成分単体 |
Nd |
50~60 |
Fe |
約770 |
|
B |
非金属につき無し |
|
SmCo磁石 |
700~800 |
|
主要成分単体 |
Sm |
約106 |
Co |
約850 |
|
Cu |
非磁性金属につき無し |
|
Fe |
約770 |
|
フェライト磁石 |
450~500 |
|
主要成分単体 |
Fe₂O₃ |
|
アルニコ磁石 |
800~850 |
|
主要成分単体 |
Al |
非強磁性体につき無し |
Ni |
約350 |
|
Co |
約850 |
|
Cu |
非磁性金属につき無し |
キュリー温度とネール温度の違い
磁石のように自発的に磁力を持つ金属(強磁性体)は、温度の上昇に伴い磁力を失います。この変化が生じる温度が「キュリー温度(Curie temperature)」です。
一方で、一見磁石のように見えないものの、原子内のスピンが規則的に配列している物質(反強磁性体)も存在します。これらの物質は、スピンが整列している間は磁性を示しますが、ある温度を超えるとスピンの配列が乱れ、磁性を失います。
この温度が「ネール温度(Néel temperature)」です。
- キュリー温度:強磁性体(磁石)が磁性を失う温度』
- ネール温度:反強磁性体におけるスピンの秩序が崩れ、磁性を失う温度
となります。
まとめ
磁石の一般的なイメージは、『どんな時も鉄にくっつく』と思われがちですが、実際には熱に対して非常に敏感です。ある温度を超えると磁性を失い、磁石としての機能を果たさなくなります。
この境界となる温度が「キュリー温度」です。鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性体は、キュリー温度を超えるとスピンの向きが乱れ、磁力を失います。
磁力は温度変化と密接に関係しており、身の回りの磁石も例外ではありません。磁石を選定する際には、使用目的や使用環境に応じて、適切な材料(主要成分)を選ぶことが重要です。